TDM例外(Text and Data Mining Exception)とは、EU著作権指令(CDSMD 2019/790)において定められた「テキスト・データマイニングを著作権侵害なく行える」という例外規定のことです。

英語表記:Text and Data Mining Exception(TDM exception)

TDM(Text and Data Mining)は、大量のテキストやデータを自動で分析して、パターンや傾向などの情報を取り出す処理のことです。AIの学習用のデータ収集との関係で、この言葉が話題になります。このページでは法令の条文が何を定めているかをまとめます。個別のケースで法的にどう扱われるかは扱いません。

この言葉の基本

TDM例外という言葉の英語表記・定めている法令・混同しやすい言葉

項目 内容
英語表記Text and Data Mining Exception(TDM exception)
分野著作権法(EU)・AIの学習データ
定めている法令Directive (EU) 2019/790(デジタル単一市場における著作権指令。略称 CDSMD)第3条・第4条。2019年4月17日採択
関係する法令EU AI Act(Regulation (EU) 2024/1689)第53条1項(c)
混同しやすい言葉robots.txt、TDMRep、日本の著作権法第30条の4

EU著作権指令が定める2つのTDM例外

EU著作権指令(Directive (EU) 2019/790)は、TDMについて2種類の例外を置いています。

EU著作権指令の第3条と第4条が定めるTDM例外の違い

条文 対象 権利者による留保
第3条研究機関や文化遺産機関が、科学研究のために行うTDM条文に留保の定めはない
第4条適法にアクセスできる著作物などを対象にしたTDM(目的や行う主体を限らない)権利者が適切な方法で明示的に留保した場合は、例外が適用されない(第4条3項)

第4条3項は、オンラインで公開されているコンテンツの留保の方法として「機械可読な手段(machine-readable means)」を例に挙げています。これが、コンテンツの権利者がAIの学習用のクロールを拒否する(オプトアウトする)ときの根拠として語られる部分です。

2024年に成立したEU AI Act(Regulation (EU) 2024/1689)は、第53条1項(c)で、汎用AIモデルの提供者に対し、第4条3項による権利の留保を特定して守るための方針を整えることを求めています。この義務の適用は2025年8月2日からです(第113条)。前文(106)は、EU市場に汎用AIモデルを出す提供者であれば、学習がどの国で行われたかを問わずこの義務を守るべきだとしています。

似た言葉との関係

robots.txt

robots.txtは、クローラーにアクセスしてよい範囲を伝えるテキストファイルです。GPTBot・ClaudeBot・PerplexityBotのように、AIのクローラーをbot名で指定してブロックする使い方が広まっています。EU著作権指令は、留保にどの技術を使うかを条文で指定していません。

TDMRep

TDMRep(TDM Reservation Protocol)は、TDMの権利留保を機械可読な形で示すための仕様です。サイトに置く tdmrep.json、HTTPヘッダー、HTMLのメタ要素などで留保を示します。W3Cのコミュニティグループが2024年5月に最終報告として公開したもので、仕様の中にも「W3Cの標準ではない」と書かれています。

日本の著作権法第30条の4

日本の著作権法第30条の4は、著作物に表現された思想や感情を享受することを目的としない利用を認める規定で、情報解析の用に供する場合を例に挙げています。「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は除くというただし書きがあります。EU著作権指令の第4条3項のような、権利者が機械可読な手段で留保する定めは、条文には書かれていません。

GEO対策における位置づけ

AIのクローラーをブロックすると、AIの学習データに自社の情報が入る範囲を絞れます。同じブロックで、AIの検索結果や回答に使われるためのクロールまで止まる場合があります。

AIの事業者の中には、学習用と検索用でクローラーを分けているところがあります。たとえばOpenAIは、学習用のGPTBotと、検索用のOAI-SearchBotを分けています。どのクローラーを止めるかで、止まる用途が変わります。

AIのボットの種類と、AIごとに対策を分ける必要があるかの全体像は、AIごとに対策を分ける必要はあるのか|AIクローラー3種類+土台で整理しています。

よくある誤解

TDMRepはW3Cの標準で、EUの法令に名前が出ている

TDMRepはW3Cのコミュニティグループの報告で、W3Cの標準ではありません。EU著作権指令にも、EU AI Actの条文にも、TDMRepという名前は出てきません。

TDM例外は科学研究のための規定だけである

科学研究に限った例外は第3条です。第4条は目的を限らない例外で、商業目的のTDMも対象になります。権利者による留保の定めがあるのは第4条のほうです。

EUの外で学習したAIには関係がない

EU AI Actの前文(106)は、EU市場に汎用AIモデルを出す提供者は、学習がどこで行われたかを問わず、第53条1項(c)の義務を守るべきだとしています。

TDM例外に関連する用語

TDM例外に関連する用語と、その意味

用語 意味
AIボットクロールAIサービスのbotがWebコンテンツを自動で取得する処理。TDMの留保が向けられる主な相手
robots.txtクローラーにアクセスしてよい範囲を伝えるテキストファイル
User-Agentアクセスしてきたクローラーやブラウザが名乗る名前。robots.txtでbotを指定するときに使う
llms.txtAIに理解してほしい情報を伝える補助ファイル。拒否ではなく、情報を差し出す側の仕組み

よくある質問

TDM例外はどの法令の規定ですか?

EUのデジタル単一市場における著作権指令(Directive (EU) 2019/790)の第3条と第4条です。指令はEU加盟国が国内法に取り入れて適用する形の法令です。

TDM例外でいう「オプトアウト」とは何ですか?

第4条3項の「権利の留保」を指す呼び方です。権利者が適切な方法で明示的に留保すると、第4条の例外は適用されません。オンラインのコンテンツでは、機械可読な手段が例に挙がっています。

TDM例外とEU AI Actはどう関係していますか?

EU AI Actの第53条1項(c)が、汎用AIモデルの提供者に、著作権指令第4条3項による留保を特定して守るための方針を求めています。適用は2025年8月2日からです。